外国人労働者の安全衛生教育の現状と課題
外国人労働者の安全衛生教育の現状と課題に関する調査研究を発表しました。
当協会では、武蔵野大学島田徳子教授、株式会社ラーンウェル関根雅泰氏、ラーンフォレスト合同会社林博之氏らと合同で、外国人労働者の安全衛生教育に関する企業側の実態把握調査の共同研究を行いました。
その成果は、令和3年10月27日~29日に東京国際フォーラムにて開催されました第80回全国産業安全衛生大会において、「日本国内の外国人材に対する安全衛生教育の現状と課題に関する調査研究」として発表いたしました。
本調査は、職場における外国人に対する安全衛生教育の現状と課題を把握することを目的に、安全衛生教育の担当者を対象として、ウェブ上でのアンケート調査を実施し、その結果をもとに分析しました。
外国人労働者に対して、職場ではどのように安全衛生教育を行っているのでしょうか。また職場の状況が良いのかそうでないのかの現状認識は、安全衛生教育と関係があるのでしょうか。さらに、外国人労働者の教育担当者が、その職務を負担に感じる場合はどのような要因が影響しているのでしょうか。そうしたことがこの研究発表で明らかになっていることと思います。ご一読いただき、さらなる安全衛生教育の向上にお役立ていただければ幸いです。
※この調査にあたり、数多くの事業所様、安全衛生教育のご担当者様にはアンケートにご協力いただきまして、誠にありがとうございました。
外国人労働者の安全衛生教育への当協会の取組み
当協会の各種講習会への外国人労働者の受け入れについては、受付時に言語能力に応じて三段階に分けて対応していますが、特別教育等は試験制度ではないこともあり、十分な教育の実施・検証等については、なお一層の充実が必要であると考えています。
そこで、手始めとして令和元年10月5日(土)に実施した第5回講師研修会において、武蔵野大学の島田徳子教授をお迎えし、以下のテーマで研修を実施しました。
<外国人にとってわかりやすい教え方とは>
- 外国人労働者に対する安全衛生教育の現状を確認する
- 「やさしい日本語」をテーマに外国人労働者に対する教え方について学ぶ
- 言葉の置き換え等の実践
その後、当協会と島田徳子教授・株式会社ラーンウェル関根雅泰氏・ラーンフォレスト合同会社林博之氏による、外国人労働者の安全衛生教育に関する企業側の実態把握調査の共同研究をスタートし、令和3年10月27日~29日に東京国際フォーラムにて開催されました第80回全国産業安全衛生大会において、「日本国内の外国人材に対する安全衛生教育の現状と課題に関する調査研究」として、研究発表を行いました。
当協会としても研究内容を踏まえ、各種テキスト・動画などの教材の充実をはじめ、外国人労働者に対する安全衛生教育を単に事業者の義務としてのみ捉えるのではなく、職場への肯定認識の向上や多様性を受容する組織風土の醸成が業務の遂行、ひいては企業の発展に欠かせない要素であることを発信していきたいと思います。
島田先生による研究発表の資料
日本国内の外国人材に対する 安全衛生教育の現状と課題に関する 調査研究
武蔵野大学 グローバル学部 教授 島田徳子
(一財)中小建設業特別教育協会
(一社)安全衛生マネジメント協会
株式会社ラーンウェル 関根雅泰
ラーンフォレスト合同会社 林博之
ダウンロードリンク:
日本国内の外国人材に対する安全衛生教育の現状と課題に関する調査研究(PDF)
【研究発表内容】
武蔵野大学の島田徳子教授による「日本国内の外国人材に対する安全衛生教育の現状と課題に関する調査研究」に関する発表。(令和3年10月28日)
1.問題の所在
日本国内の外国人労働者数は、2020年10月末で過去最高の172万4,328人、昨年はコロナの影響で増加率が大幅に低下したが、2016年に100万人を突破して以後、毎年20万人弱の増加が続いている。
2019年には、改正出入国管理法により、人手不足が深刻な14業種に対して、特定技能制度を新設することにより、これまでの高度人材の積極的な受け入れに加えて、一定の専門性・技能を有する即戦力となる中間労働者の受け入れを開始した。
しかしながら、外国人材の受入支援体制は整備途上にあり、日本語能力が不十分な外国人労働者の労働災害の増加も報告されている。また、このような問題を把握するための、外国人従業員に対する安全衛生教育の現状や課題についての調査も十分ではない。
2.調査の目的と概要
本調査では、工場や建設現場、倉庫や配送センターなどの職場や作業場における、外国人に対する安全衛生教育の現状と課題を把握することを目的とした。
具体的には、以下の3つについて明らかにすることを目的とした。
(1)各現場において、外国人従業員に対して、どのような安全衛生教育が行われているのか?
(2)職場の現状に対する認識が、外国人従業員の安全衛生教育の実施内容とどのような関係があるのか?
(3)外国人従業員の安全衛生教育を負担に感じている場合、どのようなことがその要因なのか?
調査の概要について
安全衛生教育の担当者を対象にウェブ上でのアンケート調査を実施し、184名の回答者のうち、外国人従業員が1名以上の職場の安全衛生教育担当者158名を分析対象とした。
回答者の属性については以下のとおり。
性別は、約7割が男性、年齢は40代と50代が約7割。
役職は、一般社員が約3割で課長・係長が3.5割。
また、ほとんどの回答者が日本出身者で母語は日本語。
在職年数は平均約12年、安全衛生教育の担当年数の平均は約6年。
事業所の所在地は、多い順に東京、大阪、愛知・神奈川・埼玉・千葉・・・。
会社の規模は、約半数が5名以上100名未満。
業種は、建設業と製造業で約75%。
外国人従業員を雇用開始してからの年数は、6年以上が最も多く、5年以下の企業の割合は半数を占めている。
外国人比率は、10%未満が約7割。
外国人従業員の在留資格は、技能実習が最も多い。
3.質問紙の構成と質問項目
質問紙は、安全衛生教育、職場の現状、回答者個人の異文化に対する感じ方や態度の3つの部分で構成され、それぞれ「1.全くあてはまらない、2.あまりあてはまらない、3.どちらともいえない、4.ややあてはまる、5.とてもあてはまる」の5件法(5段階)で回答を求めた。それぞれの項目と項目数は以下のとおり。
※「インクルーシブ」=包み込むような/包摂的な。この調査では「排他的でなく、違いや個人が尊重されて互いに協力しあえるような」といった意味で用いられています。
4.結果と考察
安全衛生教育の現状
安全衛生教育の実施について、参入時と配属後に分けた質問の結果からは、参入時よりも配属後の教育が充実していることがうかがえる。
また、参入時の教育において、「母語別の教材の作成」「外国人社員が安全衛生教育を担当」「外国人従業員の特性や能力の観点から教育内容を定期的に見直し改善」の評価は「どちらともいえない」であり、これは5段階評価の3未満で、実施度が低い傾向が見受けられた。
配属後の教育内容や指導方法において、標準偏差の値から職場によって差が大きいと思われるのは、外国人従業員の特性への配慮、理解のサポート、職務の明確化、イラストや写真などの視覚的支援とルール化の4つに関する項目であった。
安全衛生教育と職場の現状認識の関係
職場の現状に対する肯定的認識についての質問項目「あなたの職場や作業場では、直近、与えられた目標を十分に達成している」の平均値3.52を基準として、平均値より高いグループを高群、低いグループを低群として、安全衛生教育の内容や方法についての項目の平均値に差があるかどうか、一要因の分散分析によって検討した。
その結果、参入時も配属後も、多くの項目において、職場の現状について肯定的な認識を持っているグループの方が、安全衛生教育に関する項目の平均値が高く統計的に有意な差が確認できた。特に、配属後の安全衛生教育の差が顕著であった。
安全衛生教育の内容や方法ごとに、統計的に有意な差が見られた具体的な項目についての詳細。
・外国人従業員の特性への配慮に関する項目
・指導及び教育方法について
・教えたことの定着方法について
・職務分担の明確化について
・日本語使用への配慮について
・視覚的支援に関する項目
これらの結果から、外国人従業員に対する安全衛生教育の内容を充実させることは、外国人従業員のみならず、職場の現状に対する肯定的な認識を高めることにつながることが示唆される。
最後に、研究目的3の安全衛生教育の負担感への影響要因についての検討結果は以下のとおりであった。
外国人従業員に対する安全衛生教育を負担に感じることに、どのような要因が影響を与えているのかについて、職場の現状に関する4つの変数「コミュニケーション」「インクルーシブな組織風土」「職場への肯定的認識」「職場の否定的認識」と回答者個人の異文化感受性に関する3つの因子について相関分析を行った。
なお、安全衛生教育の負担感についての項目は、以下の7項目で回答を求めた。
その結果、安全衛生教育の負担感が高いと感じるほど、職場の否定的認識も高いという正の相関があり、回答者個人の異文化感受性の「文化的差異への否定的評価」が高いと、安全衛生教育の負担感もやや高くなる傾向があり、弱い正の相関があった。
また、インクルーシブな組織風土と職場におけるコミュニケーションの質は、ともに安全衛生教育の負担感とは弱い負の相関があった。
これらの結果から、次の3つのことが示唆される。
まず、文化的差異に対して否定的な意識や態度を持つ安全衛生教育担当者は、外国人従業員に対する安全衛生教育の負担感をより強く感じる可能性がある。
また、職場に対して否定的認識を持っている場合も、負担感をより強く感じる可能性がある。
さらに、職場の従業員同士の「コミュニケーション」の質や、多様性に対して「インクルーシブな組織風土」は、職場の肯定的認識と正の相関があることから、安全衛生教育の実施効果を高めるための基盤となっている可能性が示唆される。
5.まとめと今後の課題
以上の結果と考察を踏まえたまとめと今後の課題について、まず配属後と比較して参入時の安全衛生教育の実施度が低い項目があり今後の改善が期待される。具体的な改善ポイントとして、次の3つが有効であると思われる。
- 外国人従業員の特性に配慮した教材開発
- 教育担当者の配置
- 定期的な教育内容の見直しと改善
次に、外国人従業員に対する安全衛生教育の内容を充実させることは、職場の現状に対する肯定的認識を高めることにつながることが示唆された。
また、安全衛生教育担当者への異文化理解のための教育の実施や、職場のコミュニケーションのあり方を見直し、多様性を受容する組織風土を醸成することは、外国人従業員に対する安全衛生教育に対する負担感を軽減することにつながることが示唆された。
これらの結果をふまえた安全衛生教育を実施することにより、外国人従業員だけでなく他の従業員にとっても安全で働きやすい職場作りにつながると考えられる。
参考文献
• 石田淳・甲畑智康(2019)『<外国人と働く編>教える技術』かんき出版
• 正木郁太郎(2019)『職場における性別ダイバーシティの心理的影響』東京大学出版会
• 職⻑・安全衛生責任者テキストを考える会(2019)『職⻑・安全衛生責任者テキスト』エレメント・プラニング
• 山本志都(2011)『異文化間協働におけるコミュニケーション』ナカニシヤ出版
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